LINEで打刻した記録は労働時間の記録として認められるか

LINEで打刻した記録は、労働時間の記録として認められるか

朝7時半。スタッフは現場に直行します。事務所には寄りません。タイムカードは事務所の壁に掛かったままです。

仕方がないので、会社のLINEに「おはようございます。◯◯現場、入ります」と送らせています。夕方も同じように「上がります」。トーク画面には時刻が並んでいるので、月末に事務所の担当者がそれを見ながら出勤簿へ書き写しています。

便利に回っているように見えます。ただ、ときどき不安になるはずです。この記録は、勤怠の記録として本当に通用するのか。監督署が入ったとき、あるいは辞めた人から残業代を請求されたとき、このトーク画面は会社を守ってくれるのか。

結論から言うと、LINEの打刻は、作り方次第で労働時間の記録として十分に耐えます。ただし「トーク画面に時刻が残っている」だけでは足りません。この記事では、何が足りないのか、どう作れば耐える形になるのかを整理します。

そもそも、労働時間はどう記録すべきと決まっているのか

労働時間の把握は、客観的な記録によることが原則とされています。

厚生労働省が平成29年1月20日に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することとされています。そして、その方法として原則的に示されているのが次の2つです。

  • ア:使用者が自ら現認して、適正に記録する
  • イ:タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する

出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

ここで注目したいのが、自己申告制は「原則」の中に入っていないという点です。ガイドラインでは、アやイの方法によることなく自己申告制によらざるを得ない場合の措置が、別立てで定められています。つまり自己申告は例外扱いです。

自己申告制を使うなら、追加の手当てがいる

やむを得ず自己申告制による場合、ガイドラインは使用者に次のような措置を求めています。

  • 自己申告を行う労働者にも、労働時間を管理する側にも、ガイドラインに基づく措置について十分な説明を行う
  • 自己申告された時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した事業場内にいた時間との間に著しい乖離がある場合には、実態調査を行い、労働時間を補正する
  • 申告できる時間数に上限を設けるなど、適正な申告を阻害する措置を設けない。慣習的な過少申告が行われていないかも確認する

小さな会社では、ここでつまずくケースがとても多いです。「本人が申告しているのだから会社に落ち度はない」と考えがちですが、申告を受け取る側にも確認する責任があるという建て付けになっています。

LINEの打刻は「客観的な記録」になるのか

正直に書きます。そのままでは、自己申告に近い扱いを受ける可能性があります。作り方によって、客観性を大きく高めることはできます。

ガイドラインが例示しているのは、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録です。これらに共通するのは「機械の側が自動で時刻を刻む」という性質です。一方、LINEの打刻は本人がメッセージを送る、あるいはボタンを押すという行為が起点になります。この点だけを見れば、自己申告の要素が残ります。

ただし、LINEの打刻には自己申告と決定的に違う部分もあります。

観点紙の出勤簿への自己申告LINEでの打刻
時刻の記録本人が書いた数字がすべて送信時刻がサーバー側に自動で残る
後からの書き換え消しゴムで直せる送信済みメッセージの時刻は変えられない
まとめ書き月末に1か月分を一気に書けるその日その時刻でないと送れない
第三者の確認本人と担当者しか見ないトーク履歴として即座に確認できる

「月末にまとめて書いた出勤簿」と比べれば、LINEの打刻のほうがはるかに客観性は高いと言えます。実際、紙の出勤簿を月末に一気に埋めている会社は珍しくありませんが、それは記録としてかなり弱い状態です。

とはいえ、最終的にどう評価されるかは個別の判断が必要です。そこで実務的におすすめしたいのが、「どちらに評価されても耐える形」に作っておくことです。客観的な記録としての条件を満たしつつ、自己申告制で求められる乖離の確認も同時に組み込む。両方やっておけば、どちらの土俵でも困りません。

大手と同じ勤怠システムを入れなくていい

ここで「では専用の勤怠管理システムを導入しよう」と考える必要はありません。

クラウド勤怠システムは1人あたり月額300〜500円程度が相場です。20人なら月6,000〜10,000円。決して高くはないのですが、小さな会社で本当の壁になるのは費用ではなく定着です。現場の職人やパートスタッフに新しいアプリを入れてもらい、ID とパスワードを配り、使い方を覚えてもらう。この工程で必ず脱落者が出ます。

その点、LINEはすでに全員のスマホに入っています。新しく覚えることはほとんどありません。記録がゼロの状態から、まず記録が残る状態へ移るという一点において、LINEは最短距離です。

弱者の原則この場面での意味打ち手
一点集中力を1点に投入するまず出退勤の打刻だけ。有給も経費精算も後回し
接近戦すでにある接点を使う新しいアプリを入れさせず、LINEで完結させる
局地戦対象を狭くする全社ではなく、直行直帰の部門から始める

なお、現場の作業内容や進捗を報告してもらう仕組みは、打刻とは別に組みます。報告の送信時刻は終業時刻ではないためです。両者を混同すると、どちらの目的にも使えない記録になります。切り分け方は現場報告をLINEで集める設計図にまとめています。

記録として耐えるための4つの条件

ここがこの記事の核心です。便利かどうかの前に、この記録が後から使えるかを考えます。 満たすべき条件は4つあります。

条件1:誰の記録か、一意に特定できるか

最も見落とされるのがここです。LINEの表示名だけでは足りません。

表示名は本人がいつでも変更できます。ニックネームや絵文字だけの人もいます。同姓の社員が2人いれば区別がつきません。退職して友だちが入れ替われば、過去の記録が誰のものか分からなくなります。

対策は、友だち追加の時点で社員番号と本名を登録させ、打刻データに必ずその情報が乗るようにすることです。フォームで一度登録してもらい、以降の打刻には自動的に紐づける設計にします。

条件2:後から書き換わらない形か

記録は追記型で残します。スプレッドシートに1行ずつ積み上げていく形です。

やってはいけないのは上書き運用です。「今日の出勤時刻」というセルを毎日書き換えていくと、昨日の記録は残りません。1打刻=1行で、日付・時刻・社員番号・区分(出勤/退勤)を並べていきます。行が増えるだけで、過去の行には触らない。これだけで改ざんされていないことの説明がつきやすくなります。

条件3:法定の保存期間を満たせるか

労働時間の記録には、法律上の保存期間があります。ここは後述の章で詳しく触れますが、スプレッドシートに溜めているだけでは不十分な場合があります。年度ごとにファイルを分け、定期的にエクスポートして別の場所に保管する運用まで決めておいてください。

条件4:本人が打刻したことが確認できるか

LINEは端末を渡せば誰でも操作できます。代理打刻をどう防ぐかは、完全には解けない課題です。

現実的な手当ては2つあります。1つは、打刻時に現場名や簡単な状況を一言入力させること。代理では書けない情報が混ざります。もう1つは、代理打刻を禁止する旨を就業規則や社内ルールに明記し、周知した記録を残すこと。完全な防止はできなくても、会社としてルールを定め周知していた事実は残ります。

◆ 効率化のつもりで作った仕組みが、そのまま法令対応にもなります

この4条件を満たしたスプレッドシートは、そのまま出勤簿として使える形になります。月末に手で書き写す作業がなくなるうえ、労働時間を記録するという義務も同時に満たせる。さらに、労働基準法第108条により作成が義務づけられている賃金台帳には労働時間数を記載する必要がありますが、その元データにもそのまま使えます。
「打刻がラクになる」で終わらせず、ここまで設計してしまうのが得策です。

見落とすとトラブルになるポイント

労働基準法とは別に、もう1本の義務がある

労働時間の把握義務は、実は2本立てになっています。ここを知らない会社がとても多いです。

1本目が、先に述べた労働基準法まわりのガイドラインです。こちらは割増賃金の計算などが目的で、労働基準法第41条に定める者(管理監督者など)やみなし労働時間制が適用される労働者は対象から外れるとされています。

2本目が、労働安全衛生法第66条の8の3です。2019年4月1日施行で、事業者は厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされています。その方法は労働安全衛生規則第52条の7の3第1項で、タイムカードによる記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法と定められています。

出典:労働安全衛生法(e-Gov法令検索)

こちらで重要なのは2点です。

  • 管理監督者や裁量労働制の労働者も対象になる。「うちの店長は管理職だから勤怠は付けていない」という運用は、この義務との関係で見直しが必要です
  • 条文上は「客観的な方法その他の適切な方法」となっており、労働基準法のガイドラインより幅のある表現になっています

そして、同規則第52条の7の3第2項では、把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するために必要な措置を講じなければならないとされています。

保存期間は「3年」か「5年」か

混乱しやすいところなので整理します。

根拠対象保存期間
労働基準法第109条労働者名簿、賃金台帳、その他労働関係に関する重要な書類(出勤簿やタイムカード等を含むとされています)5年間
※第143条の経過措置により当分の間は3年間
労働安全衛生規則第52条の7の3第2項労働時間の状況の記録3年間

出典:労働基準法(e-Gov法令検索)

実務的には、将来5年に揃うことを前提に、最初から5年保存できる置き場所を決めておくのが安全です。あとから「3年で消してしまった」となるほうが困ります。

記録がないこと自体が、会社に不利に働く

辞めた人から残業代を請求された場面を考えてみてください。

会社側に記録がなく、本人側にLINEのトーク履歴や手帳のメモがある。この状態だと、本人側の主張を覆す材料が会社にありません。記録を残すことは、従業員を監視するためではなく、会社自身を守るためでもあります。

ここで少し逆説的な話をします。LINEで打刻させると、記録が残る分だけ「残業していた事実」も明確になります。それを嫌って記録を避ける会社がありますが、これは順序が逆です。記録がなければ争いになったときに不利になるうえ、そもそも実際に働いた時間に対する支払いは発生しています。記録を残して初めて、どこを減らすべきかが見えるという面もあります。

たとえば、こんな事業所の場合

たとえば、ヘルパー6人の訪問介護事業所を考えてみます。全員が自宅から利用者宅へ直行し、最後の訪問を終えたらそのまま帰宅します。事業所に立ち寄るのは週1回の会議のときだけ。タイムカードは事実上機能していません。

この事業所が組むべき最小構成は、次のようなものです。友だち追加時に名前と職員番号を登録してもらい、リッチメニューに「出勤」「退勤」のボタンを置く。押すと訪問先を一言入力する画面が出て、送信するとスプレッドシートに日付・時刻・職員番号・区分・訪問先が1行追加される。事務担当は月末にその表を見るだけで済みます。

あわせて、月に一度、申告された時間と実際の訪問スケジュールを突き合わせる時間を15分だけ取ります。これが、自己申告制で求められる乖離の確認に当たる作業です。

※ これは仕組みを説明するための仮定の例です。実際にどこまでの対応が必要かは、業種や勤務形態によって異なるため、個別の判断が必要です。

最小構成で始める手順

1

友だち追加時に、名前と社員番号を登録してもらう。フォームを1つ作るだけです。ここを飛ばすと、条件1が永久に満たせません。

2

リッチメニューに「出勤」「退勤」の2つだけ置く。休憩や外出は後回しでかまいません。まず出退勤だけを確実に回します。

3

打刻時に一言(現場名・訪問先など)を入力させる。代理打刻の抑止になり、後から見返したときの手がかりにもなります。

4

スプレッドシートに1打刻=1行で追記する。列は「日付/時刻/社員番号/氏名/区分/備考」の6つから始めれば十分です。打刻漏れの通知など自動化まで進めたい場合は、LINE公式アカウント×GAS連携の始め方にコピペで動くコードをまとめています。

5

月に一度、シートをエクスポートして別の場所に保管する。年度ごとにフォルダを分けておけば、保存期間の管理も自然にできます。

ここまでを、LINE公式アカウントの無料プランと拡張ツールの無料プランだけで組めます。費用をかけずに、記録がゼロの状態から抜け出せます。

無料の範囲で試してみる

この設計は、エルメのフリープランで一通り試せます。フォーム作成もリッチメニューも無料で使えるため、初期費用をかけずに打刻の仕組みを組めます。実際に作ってみると、自社の運用に何が足りないかが見えてきます。

エルメ(L Message)を無料で試してみる

どのプランで始めるべきか迷う場合は、無料プランの限界と有料に切り替えるべき3つの分岐点を先に確認しておくと判断が早くなります。従業員10人程度の打刻であれば、配信通数の面では無料枠に十分収まります。

よくある失敗

トーク画面をそのまま記録として使う
最も多い形です。時刻は残りますが、誰の記録か特定しにくく、集計もできず、保存期間の管理もできません。トークは入口であって、記録の置き場所は表側に作ります。

打刻忘れの修正ルールを決めていない
必ず起きます。圏外、電池切れ、単純な忘れ。大事なのは、修正したこと自体を記録に残すことです。元の行は消さず、修正行を追加して備考に理由を書く。上書きで直すと、改ざんとの区別がつかなくなります。

直行直帰の日の扱いを決めていない
ここも定番です。移動時間を労働時間に含めるかは、指揮命令下にあったかどうかで判断が変わります。判断そのものは個別の検討が必要ですが、少なくとも「いつどこから動いたか」の記録は先に残しておいてください。記録がなければ判断もできません。

管理職だけ打刻していない
労働安全衛生法の労働時間の状況の把握義務は、管理監督者も対象になります。「管理職は残業代が出ないから記録も不要」という整理は成り立ちません。

よくある質問

LINEの打刻だけで、タイムカードは廃止していいですか

記録として4つの条件を満たす形が作れていれば、実務上はLINEの記録を出勤簿として運用している会社もあります。ただし事業場の実態によって適切な方法は変わるため、廃止の判断は個別の検討が必要です。移行期間中は両方走らせて、記録が一致するかを確認してから切り替えるのが安全です。

スタッフの個人LINEを業務で使わせても問題ありませんか

会社のLINE公式アカウントを友だち追加してもらう形であれば、社長の個人LINEでやり取りするより整理された形になります。ただし私物のスマホを業務に使わせることになるため、通信費の扱いや、退職時に友だちを解除する運用を決めておく必要があります。社内ルールとして文書にしておくと、後々の争いを防げます。

打刻の時刻は、送信時刻でいいのですか

送信時刻を打刻時刻として扱うのが一般的です。注意が必要なのは、現場に着いてから30分後に思い出して送るようなケースです。実際の始業時刻と記録にずれが出ます。ここは運用の周知でカバーするしかありませんが、著しいずれが常態化している場合は、ガイドラインが求める実態調査の対象になり得ます。

過去にさかのぼって記録を作り直してもいいですか

実態と異なる記録を作ることは避けてください。過去分については、残っている資料(トーク履歴、作業日報、訪問記録など)から分かる範囲で整理し、それが事後に整理したものであることを明記しておくほうが、後から見たときの信頼性は高くなります。

まとめ

この記事の結論

  • 労働時間の把握は客観的な記録によることが原則。自己申告は例外で、追加の手当てが求められる
  • LINEの打刻は、そのままでは自己申告に近い扱いを受ける可能性がある。ただし月末にまとめ書きする紙の出勤簿よりは、はるかに客観性が高い
  • 耐える形にする条件は4つ。①誰の記録か特定できる ②追記型で書き換わらない ③保存期間を満たせる ④本人が打刻したと確認できる
  • 労働安全衛生法の把握義務は管理監督者も対象。記録は3年保存が必要で、労働基準法側は将来5年に揃う
  • 明日やること:今のLINEの記録を見て、「誰が押したか」が社員番号で特定できるかを確認する

記録を残すことは、スタッフを疑う行為ではありません。働いた時間を正しく残すことは、本人にとっても会社にとっても、あとから困らないための備えです。そして多くの場合、記録を整えた会社のほうが、労働時間そのものも短くなっていきます。見えるようになって初めて、減らせるからです。

打刻の次に取り組むなら、シフトの希望回収です。同じスプレッドシートの仕組みを使って、シフト提出をLINEで自動集約する設計図にまとめていますので、あわせてご覧ください。

もうひとつ、記録の面で優先度が高いのが有給休暇です。年次有給休暇管理簿は法令で作成が義務づけられており、年5日の取得義務には罰則もあります。申請の受付から管理簿の作成、未達の検知までを自動化する方法は、有給申請をLINEフォームで受ける方法にまとめました。打刻と同じスプレッドシートにシートを足すだけで組めます。

どのツールで組むかを比較検討したい場合は、Lステップとエルメを料金で比較した記事もあわせてどうぞ。従業員数が少ない会社の場合、判断のポイントは限られています。

※ 本記事は2026年9月時点の法令・ガイドラインに基づいています。個別の事案における適用の可否については、実態に即した判断が必要です。